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報恩感謝
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報恩感謝

日本医療科学大学 学長新藤 博明

日本医療科学大学
学長
新藤 博明

放射線科医としてキャリアを積み、2007年に日本医療科学大学保健医療学部教授に就任。現在は、日本医療科学大学の学長として、次世代の医療従事者を育成している。座右の銘である「報恩感謝」を体現するようなキャリアを歩んできた新藤学長のお話を伺った。


キャリアにおける成功体験は素晴らしい先輩との出会いと学びだと語る新藤学長。キャリアの歩みを伺うなかで、謙虚な姿勢が印象的だ。

 

放射線科を選んだのは、どの科に進んでも魅力的に思えて絞り切れなかったからです。画像検査は内科、外科問わず様々な診療科と関わりがあり、幅広い疾患を診られるので、放射線科は魅力的でした。その後は大学病院、民間病院にて臨床経験を重ね、2007年4月に日本医療科学大学保健医療学部の教授に就任し、現在は日本医療科学大学の学長を務めています。

キャリアを振り返ると、やはり素晴らしい先輩方との出会いが一番の成功体験だと思います。最も印象に残っているのが、医局旅行で上司からお叱りを受けたことです。医局時代、集合時間前に病院で患者さんを診察してから集合場所に向かったため、集合時間に遅れてしまい「仕事があっても遅れるな」と注意されました。

仕事が理由で遅れたのだから仕方がないと私は考えていたのですが、理由が何であれ遅れたのは事実です。仕事を言い訳にしないということ、自分の仕事だけでなく周囲に気を配ること、そして状況の変化やトラブルに柔軟に対応できるよう前もって準備をしておくことの重要性を学べた出来事でした。仕事をするうえで、とても重要な気付きを得られたと思います。

私の考えでは「仕事だから」と言い訳すると、誰も何も言えなくなるので謙虚さに欠けると思うのです。そして、謙虚さは医師として働くうえで非常に大切なことだと思います。

例えば、医療職で「私が治した」といった発言をする方もいますが、私はそうではないと思います。臨床経験20年で感じた事は、どんなに私たちが手を尽くしても残念ながら回復できず、逆に、難しい症例でも回復されるケースもあることです。私たちは、医療職としてできることを行って、回復をサポートする立場だと考えています。

現在はチーム医療の重要性が増していますが、医療従事者のチームで患者さんの課題に取り組むのではなく、患者さんもチームの一員として病気に立ち向かうことと考えています。医療従事者が患者さんの意見も踏まえて、全ての情報を共有し、病気に立ち向かっていける体制を作っていきたいです。

失敗体験として、医師としての経験をある程度積んだ時期に患者さんから怒られたエピソードをお聞かせいただいた。治すのはあくまで患者さんであるという認識を新たにしたという。

 

医師としてある程度の経験を積んだ時期に、患者さんにとても怒られたことがあります。医師として正しい指示を伝えているのにもかかわらず、患者さんがなかなか受け入れてくれないという思いがあったため、知らず知らずのうちに言い方がきつくなっていたのでしょう。患者さんからすれば、信頼関係のできていない医師に偉そうに言われたと思ったのかもしれません。

もちろん、医師として患者さんに指示を伝えるのは当然です。しかし、患者さんが前向きに治療に取り組めるようにするのも医師の仕事だと気が付きました。相手は病気で苦しんでいるので、感情的になっても私たちが仕事の範疇だと受け止めるのが大切です。

先ほどの話と重なりますが、治るかどうかは患者さんの努力、もしかしたら運で決まるのだと思います。だからこそ、医療従事者の重要な役割のひとつに患者さんが努力し続けられるためのサポートをすることではないでしょうか。

新藤学長の座右の銘は「報恩感謝」。周囲の人たちへの感謝を大切にする考えは、チーム医療など医師としてのあり方に深く関わっている。

 

座右の銘は「報恩感謝」です。周りの人、実際には会ったことがない方も含めて自分に関わった全ての人の協力があって生きているので、感謝をするという意味です。私が運営に携わっている日本医療科学大学が医療系専門学校だった時代に非常勤講師として関わる機会があり、その時に聞いて感銘を受けた言葉で、様々な機会でお話ししています。

報恩感謝の考えは、医療現場、特にチーム医療においても重要だと考えています。私は医師・歯科医師・薬剤師と、他の医療従事者を区別するのに違和感があります。医師だけでは医療を提供できないので、同じスタッフの一員であるべきだと思うのです。もちろん、医師の責任が最も大きいため、リーダーを務める場合が多いのですが、あくまでフラットな関係が理想ですね。医師が頂点のヒエラルキーというのではなく、お互いに感謝し合いながら治療を行いたいと思っています。

また、チーム医療では医師同士の関係性も重要です。例えば肺がんであれば、手術や抗がん剤治療、放射線治療など1人の患者さんに対して様々な治療をします。これまでは、各分野の医師が自分の仕事をしてバトンを渡すといった流れでした。しかし、他の先生の治療についても理解を深め、1つのチームとして取り組むのが大切だと考えています。

その場合も、主治医のようにリーダーを決めて統制を取り、各診療科の先生方や放射線技師、理学療法士、看護師などが横並びになって、協力しながらチームを作るのがよいと思っています。難しい部分もありますが、大学の講義でもチーム医療が取り上げられ、国内でも関連するミーティングが開かれているので、いつかベストな着地点が出るのではないでしょうか。

今の一番の楽しみは、家族との時間だという新藤学長。プライベートの過ごし方についてお話しを伺った。

 

今の一番の楽しみは我が子の成長なので、休日はなるべく家族と過ごすようにしています。一緒に過ごす時間は、とても貴重だと感じていますね。

ゴルフ・読書・映画鑑賞が好きです。ゴルフはなかなか行けませんが、本格的にというよりは、仲間内や仕事で知り合った方と気分転換でプレイしています。

また、プライベートではないのですが、学生たちが成長し卒業していく、また臨床の場で活躍している姿を見るのも、心の支えになっていますね。卒業式で学生に「ありがとうございました」と言われたり、国家試験に合格する姿を見たりするのは、一番のやりがいです。それまでの努力が実ったと感じて、感慨深いなと思っています。

若い方々へのメッセージとして「経験が少なかったとしても、患者さんにとってあなたは立派な医療チームの一員なのでプロ意識を持って欲しい」「諦めずに完遂して欲しい」という言葉をいただいた。チーム医療をはじめ、様々な状況で活躍する医療従事者を育てるための取り組みについて伺った。

 

若い方々にお伝えしたいのは、プロ意識を持って欲しいということですね。なぜなら、患者さんにとって、あなたは立派な医療チームの一員だからです。私は臨床で10数年にわたり経験を積み、医療は患者さんの努力や運が必要で、力の限りを尽くしていても、救えない場合もあると知りました。

しかし、医療に携わる以上、それでも勉強などの地道な努力を続けなければいけません。また、経験を積んで技術が身に付いてきても決して驕らず、経験が浅いからといって甘えず、治療に向き合うことが求められます。

現在は教育者として、学生たちが将来的にプロとして活躍できるように様々な取り組みを行っています。臨床検査学科の中に臨床工学技士を入れて、学科間で相互に一定の単位数の講義を受けられるようにし、他の医療職の専門領域の知識を身に付けられる環境を整えるなど、取り組みは多岐に渡ります。チームビルディングを行う力や協調性を伸ばす目的で、1年次に「チーム医療演習Ⅰ」という必修科目を全学生が学びます。この演習では、違う学科と合同でグループを作り、問題解決を目的に事例検討を行い、発表する機会を設けるもので、本学の重要な取り組みの一つです。

また、医療従事者を目指す方には、一度目指した道を途中でくじけないで完遂して欲しいと思っています。入学の時点でどの職種が適しているかを見極めるのは難しい面もありますが、機会があって入学したからには、卒業して国家試験に合格するところまで頑張ってもらいたいですね。本学では、残念ながら留年してしまった場合も授業料の減免や補講など、できるだけサポートしています。

本学の学生で、アルバイトで衣料品の製造・小売りをしていたところその道に興味を覚え、大手企業に就職した人がいます。成績も特に良かったわけではありませんが、就職試験も合格して衣料品の道を進むと決めた状態でしたが、自ら卒業して国家試験の合格も果たし、すごく恰好いいなと思いましたね。

もちろん、他にやりたいことがあればそちらの道に行けばいいし、必要であれば途中で辞めるのも仕方がないかもしれません。しかし、時間的には少し遅れるかもしれないけれど、資格を取得してから別の道を選んだのも良い選択だと思っています。

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