医学生時代の自身の手術がきっかけで、肝胆膵外科の道を志した海野教授。外科医を3年ほど経験した後、6年間にわたり基礎研究に従事。再び外科医として臨床の場に戻った。その後、2010年に『膵癌術前治療研究会』という研究会を設立し、膵がんの「術前治療」が標準治療として認められるよう尽力した。チャレンジ精神あふれるキャリアは、若い医療人にとって大いに参考になるだろう。
キャリアにおける最大の成功体験として、『膵癌術前治療研究会』を設立し、膵がんの「術前治療」を標準療法にしたエピソードを伺った。同世代である30~40代の医師たちとの取り組みが大きな成果を生んだという。
私にとって一番の成功体験は、2010年に『膵癌術前治療研究会』という研究会を立ち上げ、新しい治療法で成果を出した結果、その治療法が標準療法になったことです。
それまでの膵がんは、切除できそうであれば手術をして、手術後に抗がん剤治療を行うことが一般的な治療法でした。抗がん剤治療をしてから手術する「術前治療」の方が良いのではないか考えていたのですが、当時は「抗がん剤治療をしたことで、手術のタイミングを逃したらどう責任を取るのか」といったように風当たりが強かったです。
そこで、私のいる東北大学が事務局になって研究会を作り呼びかけたところ、多くの大学や病院の先生が参加してくれました。術前治療は徐々に理解が進んでいき、標準療法になるにあたって必須となるランダム化比較試験を行う頃には、研究会に所属する施設は50まで拡大することになります。
臨床研究の結果、手術前に抗がん剤治療を行った方が良いと分かり、現在では術前治療がスタンダードと言われるまでになったのです。
当時の私は40代で、術前治療に興味を持って集まってくれたのも、同世代の若手の先生たちでした。年齢が近いこともあり、先生同士の連携がとりやすく、一緒に取り組めて本当に良かったです。
キャリアの分岐点としては、外科医を3年ほど経験した後に、基礎研究に従事したことが良かったと感じています。当時、最新の分野である分子生物学の有名な先生が東北大学医化学教室に着任した時に、興味が湧いて教室に行きました。
それがきっかけとなり、特別研究員として研究費を貰いながら膵臓の研究をすることになります。教授からは研究を続けるよう勧められましたが、研究の成果を患者さんにフィードバックしたかったこともあり、先生には大変申し訳ないと思いつつ、外科医の道に戻りました。
その6年間は、外科医としてのキャリアが空白になっています。デメリットになったこともありますが、苦労して研究したことは、現在でも役立っています。基礎研究の教授から、論文の書き方などを学んだことはしっかり根づいていますね。基礎研究を通して、日本全国の基礎医学者・臨床研究者など様々な方と人脈ができたのも大きいです。人との出会いを含め、運が良かったなと思います。
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