柏崎教授は、親類に農業関係者が多く、動物が好きであるという理由で、大学で畜産学を学び、麻布大学から明治大学大学院に進学し、哺乳類の生殖工学の研究者としての道をスタートした。食品企業やバイオベンチャーの研究員や大学の教員として、養豚やブタの生殖工学、動物繁殖学を研究してきた。ブタのキメラや胚の超低温保存、ICSI胚からの産子、ラットの精子凍結保存について、世界で最初の成功例を報告。哺乳類の生殖工学のパイオニアとしてキャリアを積んできた。現在は、麻布大学獣医学部教授として研究や学生の指導に携わるかたわら、公益社団法人 日本畜産学会の理事長を経て、一般社団法人 日本卵子学会理事長としても活動。生殖の研究をする基礎研究者と不妊治療に取り組む医師との架け橋として、活躍している。「成功例のないことへのチャレンジ」を大切にしてきた柏崎教授のキャリアは、新しい分野を切り拓く楽しさに満ちている。
研究では新規性を重視し「成功例がないことへのチャレンジ」に力を入れてきた柏崎教授。最近、医療への貢献も期待されるブタのキメラをはじめ、いくつもの世界初の成功例を報告してきた哺乳類の生殖工学のパイオニアだ。研究の成果は、ヒトに対する生殖補助医療や不妊治療への応用が期待されている。常に最先端を走ってきた柏崎教授の成功体験は、研究の面白さと有用さを感じさせる。
キャリアにおける成功体験は、研究者として新規性を重視して、成功例がないことにチャレンジしてきた点です。まだ誰も成功していないこと、まだわかっていないことのなかで、社会的な意義の高いところに挑戦してきました。このようなチャレンジングな姿勢は、研究者として恩師から学んだことです。学生時代に「誰もやっていないからこそ意義がある」と日々言われて、研究生活を送っていました。
私が生殖を学んだ時代は、内分泌関係を専門にする方が多かったです。1978年に世界初のヒト体外受精が成功して以来、不妊治療や生殖補助医療が、急速に広がっていきました。そのベースとなるのが、私たち家畜を含めた動物の生殖を専門とする研究者が医師の方々と一緒に研究開発するということです。私が理事長を務めている日本卵子学会という組織も、動物関連の基礎研究者と産婦人科領域の医師が協力して活動しています。生殖学は、農学・畜産学関係の研究者と医師が非常に強く結びついており、社会的な視点でも比較的新しい医学領域です。こういったコラボレーションが非常に上手く行っている領域ですね。
生殖という広い意味では哺乳類の研究結果は、ヒト生殖補助技術につながる部分があります。ヒトでは倫理的に直接的な実験ができないので、私たちが扱っている動物での基礎研究の成果が医師の方々に必要とされています。また、私たちの研究成果および人材の供給が、現在の不妊治療・生殖補助医療の進歩に大きく貢献できていると考えています。
日本は社会が成熟して少子高齢化が急激に進み、現在は不妊治療が世界で一番進んでいる国の1つです。それに伴い、医師の指導のもとで顕微授精や体外受精などを行う技術者である胚培養士など、これまであまり知られていなかった生殖関係の専門職が現れています。この生殖補助医療胚培養士の認定は、日本卵子学会で行っており、私の研究室でも20年前から胚培養士を輩出しています。こういった最先端の医療に携われるのは、研究者として非常にやりがいがありますね。同様に、日本臨床エンブリオロジスト学会でも臨床エンブリオロジストを認定しております。
私はもともとサッカーばかりやっていて、プロは厳しそうなので興味のあった農学分野の大学に進学しました。親類に農業関係者が多く、動物が好きだったこともあり、農学関連の畜産の道を選びました。もともと生物学の勉強も好きでしたし、わかりやすい実利的な学問だったので、結果として自分に向いていると思っています。
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