医ノ匠

  1. 医ノ匠 HOME
  2. インタビュー
  3. 日本認知神経リハビリテーション学会/高知医療学院 会長/学院長 宮本 省三
どうでもよいことは流行に従い、重大なことは道徳に従い、芸術のことは自分に従う
どうでもよいことは流行に従い、重大なことは道徳に従い、芸術のことは自分に従う

どうでもよいことは流行に従い、重大なことは道徳に従い、芸術のことは自分に従う

日本認知神経リハビリテーション学会/高知医療学院 会長/学院長宮本 省三

日本認知神経リハビリテーション学会/高知医療学院
会長/学院長
宮本 省三

高知医療学院(新松田会愛宕病院附属/理事長:内海順子)を卒業し、理学療法士の資格を取得。高知医療学院の教員として約10年勤務。同校の海外研修制度により、1年間ヨーロッパへ研修に行き、イタリアで「認知運動療法(認知神経リハビリテーション)」と呼ばれる新しいアプローチに出会う。帰国後は、認知運動療法の研究をすすめ、高知医療学院で学生の指導にあたるとともに、数々の著書を執筆。身体哲学、運動心理学、脳卒中片麻痺のリハビリテーション、高次脳機能障害のリハビリテーションを専門に、リハビリテーションの最前線を走ってきた。宮本学院長のお話からは、理学療法士としてのキャリアの築き方や心構えなど、多くのことが学べる。


キャリアの最大の転機として、イタリアのスキオ病院でのカルロ=ペルフェッティ教授との出会いをあげていただいた。教授は、新しいリハビリテーションである「認知運動療法」の研究をしており、その出会いは宮本学院長の人生を大きく変える。

 

最大の転機は、イタリアでのカルロ=ペルフェッティ教授との出会いです。教授は新しいリハビリテーションである「認知運動療法」を研究しており、その出会いは私の人生を大きく変えました。

1990年、31歳のときに海外研修制度を利用し、ヨーロッパ各地の病院を60施設ほどまわりました。場所もやることも自由という好条件だったので、ヨーロッパの国々の現場を回って、理学療法士がどのような治療をしているのかを、この目で見たいと思ったんです。現場を回るなかで、もし言葉の壁がなければ、10年ほど日本で学んできた知識や技術があれば、ある程度、仕事はできるだろうと思いました。もちろん、知らない領域やテクニックはあるけれど、充分通用する自信がありましたね。

ところが、イタリアの本屋さんである不思議な本を見つけました。脳卒中の片麻痺のリハビリテーションについての本なのですが、専門領域なのにもかかわらず、初めて見るような治療場面で理解ができませんでした。「自分の知らない世界だ」と非常に衝撃的でした。ミラノ大学医学部付属病院へ見学に行くときに、本を持っていったらイタリアで展開されているリハビリテーションの手法だとわかりました。「これまでの片麻痺のリハビリテーションは脊髄に働きかけている。でもこのアプローチは脳に、大脳皮質に働きかけるんだ」と言われ、とても驚きました。

その後、著者のカルロ=ペルフェッティ教授を訪ねたところ、運よく臨床の現場を見ることができました。「今まで学んできたものでは、太刀打ちできない」と感じましたね。先生から、治療の背景になったという英語の論文をいくつもいただきました。日本の脳科学者の非常にレベルの高い論文が何本もあり、帰国後にその文献と実際の治療を比較しながら、勉強を始めました。認知運動療法との出会いにより、リハビリテーションへのアプローチの仕方が大きく変わりました。例えば、右の手足が麻痺した場合、残った左の手足を最大限に活用する方法と麻痺した方の回復に最大限取り組む方法、そして両方を少しずつできる範囲でする方法があります。

私は帰国後に悩んだ末に、麻痺した方の回復に最大限取り組む方法を選びました。ペルフェッティ教授に「患者さんは麻痺した手足の回復を望んでいるのだから、その回復に取り組むのがまず筋だ」と言われたからです。

患者さんが回復を願ってリハビリテーションをしにきているのに、医療従事者が治療を諦めることを「裏切られた期待」と教授は言っています。もちろん、回復に取り組んでも十分に結果が出ない場合もあり、日本では折衷案を取るケースが多いです。ただ、個人的にはセラピスト(理学療法士、作業療法士、言語聴覚療法士)が治療を諦めると、回復の可能性はゼロになりますし、リハビリテーション自体の進歩が停滞すると考えています。

コンテンツは会員限定です。
続きをご覧になるには以下よりログインするか、会員登録をしてください。