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必要な価値を見出し、自分が何をすべきか考え、行動できる人が求められている
必要な価値を見出し、自分が何をすべきか考え、行動できる人が求められている

必要な価値を見出し、自分が何をすべきか考え、行動できる人が求められている

医療法人 誠明昂会 理事長大橋 威信

医療法人 誠明昂会
理事長
大橋 威信

小学生の頃から医師を目指していた大橋理事長。医学部に進学後は、循環器科を目指していたが、研修医時代に皮膚科に出会い、進路を変更した。現在は医療法人 誠明昂会の理事長として、ファミリア皮膚科長町 ファミリアクリニック卸町を経営。患者の症状・悩みに合わせ、保険診療と自由診療どちらも提供し、地域医療を支えている。


キャリアにおける成功体験として、経営する皮膚科クリニックが自費診療領域へ本格的に参入したエピソードをうかがった。レーザー機器などを導入し、地域医療に貢献しているのだという。保険診療だけでは解決できない悩みを持つ患者は少なくない。「患者の悩みを解決して喜んでもらいたい」という大橋理事長の思いが伝わってくる。

 

小学生の頃にはすでに医師を目指していました。父が整骨院を営んでいたこともあり、幼い頃から医療に触れる機会が多くありました。人の健康に関わる仕事に就きたいという思いが芽生え、卒業文集にも「将来の夢は医師」と書いていたほどです。

高校生になっても、その想いは変わりませんでした。世の中にはさまざまな職業がありますが、なかでも人の健康に深く関わる医師という仕事は非常に価値があると感じていたんです。新しいことへの挑戦も好きだったので、医学部を目指す決意をしました。

4人も兄弟がいるなか私立大学医学部の学費を用意してくれた両親、金銭面で迷惑がかかるかもしれないのに応援してくれた兄弟たちには、本当に感謝しています。

医学部に進学後、最初は命に関わる疾患を取り扱う機会が多い循環器内科を志望していました。しかし、研修医2年目の頃に先輩から「循環器内科に進むなら、皮膚科の研修行った方がいいよ。病棟は褥瘡とか薬疹の患者さんが多いから」とすすめられ、皮膚科の研修に行くことに。皮膚科の面白さ奥深さに惹かれ、進路を変更しました。

皮膚科の患者さんは、自分の悩みを率直に伝えてくれます。「顔の吹き出物を治してほしい」「かゆみがひどく夜も眠れません」といった感じです。そして治療によって症状が改善すると、とても喜んでくれます。その姿を見て、皮膚科医は人に喜ばれる仕事だと実感しました。

循環器内科では命に関わる重大な病気を扱いますが、皮膚科では一見ささいな悩みでも、その人にとっては大きな問題となっている症状を扱うことが多いのです。ニキビやシミも、人によっては人生を左右するほどの悩みになり得ます。そういった悩みを解決することも、医師の重要な役割だと気づきました。

皮膚科医における大きな成功体験は、自費診療領域への本格的な参入です。開業当初は保険診療の一般皮膚科の割合が9割でしたが、1割の美容皮膚科のニーズが徐々に増えていく可能性を感じ、開業2年目から本格的な導入を決意。レーザー機器をはじめ複数の医療機器の設備投資をしました。

その結果、一般的な保険診療だけではよくならない患者さんのニーズに応えられるようになりました。例えば、ニキビの治療やあざに対するレーザー治療など、これまで宮城県では、大学病院などの基幹病院や一部の美容クリニックでしか受けられなかった治療を当院でも提供できるようになったのです。自由診療はコストも時間もかかりますが、近隣の皮膚科や病院からも難しい症例の患者さんを紹介していただけるようになり、地域の中でも重要な役割を担えるようになりました。

保険診療と自由診療どちらも行うにあたって、オペレーションには苦労しました。健康保険には「同じ疾患に対して同日に保険診療と自費診療を行ってはいけない」というルールがあります。「保険で診察して解消できない悩みは、別の日に自由診療で治療する」といったように、明確にわけてオペレーションしています。

キャリアにおける失敗体験は、経営するクリニックでの医師の採用とマネジメントだという。スタッフの採用・マネジメントは、クリニックの質を大きく左右する重要な要素だ。大橋理事長は、当時の反省を活かし、より良いクリニックづくりに日々取り組んでいる。

 

キャリアにおける失敗は、医師の採用とマネジメントです。2院目のファミリアクリニック卸町の開業にあたって、常勤医師と3名、パート医師を1名採用しました。キャリアのある医師だったこともあり、早い時期から比較的大きな裁量のもと診療を任せました。ですが、あまり上手くいきませんでした。

原因はいくつかありますが、私と医師のコミュニケーションや目線合わせが上手くいっていなかったのが大きいですね。ルールや診療方針への理解のずれ、そもそものクリニックの理念や価値観とのミスマッチなどがわかりました。

何とか立て直してクリニック内は落ち着きましたが、それ以来、医師の採用やマネジメントには細心の注意を払っています。

採用の際には、医師としての知識・技術はもちろん、フィードバックを素直に聞く姿勢やチームで仕事をする意識といった人間性の部分を重視しています。患者さんに常に質の高い医療を提供するために、時には指摘をしなければいけない場面もあるからです。あとは入社前に、実際に私の診療を見学してもらうことで、診療方針への理解度を高めてもらうようにしています。

マネジメントの面では、事務長を経由して業務の注意点を伝えるなどの工夫をしています。事務長の広い俯瞰的な視点を経て、スタッフに伝えてもらったほうが、こちらの意図がうまく伝わりやすいことが多いです。私自身は、日々の診療を通してコミュニケーションを取り、普段はほめたり感謝の気持ちを伝えたりする割合を増やすようにしています。

また、残業を減らすために、ある程度時間のゆとりを持って患者さんを受け入れる取り組みもしています。残業が常態化している職場では、スタッフが10年・20年と仕事を続けるのは難しいでしょう。一時的に売上が落ちても、無理なく働ける環境を整えることで、長期的にはプラスになるはずです。

今後はオンライン診療を導入し、スタッフのライフステージが変化しても、無理なく仕事ができる環境を整えたいですね。

座右の銘として「足るを知る」「ありのままなるまま」「人は鏡」の3つをあげていただいた。等身大の自分で地道に皮膚科医療と病院経営に取り組む大橋理事長の姿勢がうかがわれる。

 

座右の銘は「足るを知る」「ありのままなるまま」「人は鏡」です。病院経営を通じて、自分の周りで起こることは、全て自分に原因があると感じるようになりました。無理に良く見せようとしても、いずれは本性が出てしまいます。だからこそ、素の自分を出せるよう、誠実であることを心がけています。

以前は、多くの患者さんに質の高い医療を提供するために、積極的にクリニックの数を増やしていく方針でした。ですが、今は理念や価値観に共感するメンバーたちと既存のクリニックの価値を高めていき、私たちの考えや文化にふれ、共感していただける人に、クリニックをお任せしていくことがより近道だと感じています。そのためにも、まずは自分たちがワクワク楽しめて、心から愛せる職場環境を作っていくことが大切だと感じています。

これまではクリニックの業務で、プライベートの時間がほとんど取れなかったという大橋理事長。今は、経理や労務は管理部門に任せているため、自分の時間を取れるようになったそうだ。家族との旅行や買い物を楽しみ、得意の料理をふるまい、充実した毎日を過ごしている。

 

最近の休日は、自分の時間を満喫しています。以前は休日も経理や労務といった、診療中にはできない業務をしていて、プライベートはあまりありませんでした。今は管理部門を設けているので、家族と旅行や買い物に出かけたり、家でのんびりしたりしています。本当にありがたいです。

開業してからわかりましたが、院長は診療以外にも経営など多岐に渡る業務があり、リソースの確保が重要です。開業前は診療以外の領域がまったくイメージできておらず、開業当初はかなり苦労しました。

若者たちへのメッセージとして、「医療に関わることを選んで下さり、本当にありがとうございます」という言葉をいただいた。少子高齢化による人口減、診療報酬の引き下げなど、医療業界の現状は厳しい。しかし大橋理事長は「必要な価値を見出し、自分の役割を見つけて行動することで道は開ける」と力強く語る。

 

若い方々には「医療に関わることを選んで下さり、本当にありがとうございます」と伝えたいです。医師は、人々の健康を守る非常にやりがいの多い仕事です。しかし、少子高齢化による人口減少を背景に、日本の医療は今後ますます困難な局面を迎えるでしょう。実際に、診療報酬の引き下げなど、医療機関にとって厳しい状況が訪れています。

これからは、困難な時代や環境の中でも、必要な価値を見出し、自分が何をすべきなのかを考え、行動できる人が求められています。

例えばこれから皮膚科を開業するのであれば、保険診療だけではなく、自由診療への理解が不可欠です。保険診療の点数は年々下がっており、保険診療だけで経営を維持するのは難しくなってきています。また、医療費負担が増えれば、対処療法から予防医療へ、国民の意識は変わっていきます。その中で、世の中のニーズを理解し、先を見据えた視点と広い視野で、必要な価値を創造することが、これからはより一層求められると考えています。

医療の本質は、患者さんの健康を守り、支えることです。技術の進歩や新しい治療法の開発だけでなく、患者さんとの信頼関係を築き一人ひとりに寄り添う姿勢が、これまで以上に重要になってきます。ぜひ、よい絆をつくり、次世代につなげてください。

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