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自分の限界を簡単に決めないで欲しい
自分の限界を簡単に決めないで欲しい

自分の限界を簡単に決めないで欲しい

社会医療法人厚生会 中部国際医療センター 麻酔・疼痛・侵襲制御センター 統括センター長(岐阜大学名誉教授)飯田 宏樹

社会医療法人厚生会 中部国際医療センター 麻酔・疼痛・侵襲制御センター
統括センター長(岐阜大学名誉教授)
飯田 宏樹

麻酔科の医師として臨床経験を積み、アメリカに留学。コカイン・アルコールの胎児脳循環への影響を研究した。帰国後は脳脊髄循環の差異の研究などに取り組み、1998年には日本の麻酔領域における最高クラスの賞である山村記念賞を受賞。タバコの脳循環への影響の研究を行い、手術を受ける患者や痛みを持つ患者の禁煙啓発活動に取り組んできた。また、麻酔科で働く女性医師のワークライフバランスの向上に務めるなど、研究や環境改善など様々な活動で目覚ましい成果を上げてきた。幅広い領域で活動する飯田名誉教授のキャリアは、目の前のことに果敢に挑戦することで積み上げられたという。


キャリアの成功体験として、アメリカ留学時のコカイン・アルコールの胎児脳循環への影響の研究を挙げていただいた。もともとは臓器や組織への血液の灌流量が著しく減少する虚血の研究をしていた飯田名誉教授。本来の留学目的と異なる内容でやや不本意に感じつつもチャレンジした結果、その後のキャリアで大きくプラスになったそうだ。

 

一番の成功体験は、1990年代初めにアメリカに留学してコカイン・アルコールの胎児脳循環への影響を研究したことです。僕はもともと中枢神経障害の研究をしていたのですが、当時のアメリカはコカイン中毒が社会問題化していて、コカインに関する研究の需要が高かったんです。

それまでの研究内容とは全く違ったのですが、考え抜いた末に挑戦することにしました。当時の日本の状況から考えて、帰国後にあまり役に立たなさそうだと思ったこともあります。しかし、このときの経験が、後になってから非常に役立ちました。

アメリカでは、脳血流を放射性同位元素を用いた高価で、特殊な機器を使用して測定していました。しかし、帰国後は経済的にも環境的にも厳しかったので、脳や脊髄の血管を直接観察して研究を進めることになります。当時は脊髄循環を日本で研究している人は少なく、結果的に山村記念賞やアストラ・リサーチ・アワードの受賞に繋がりました。

当時の日本では、タバコが問題になり始めていたので、タバコが脳循環に与える影響の研究に携わるようになりました。タバコに関する研究は、僕にとってライフワークです。周術期禁煙のためのガイドライン作成、痛みを持つ患者さんが喫煙することによる痛みの悪化の啓発など、様々な社会活動にも繋がっています。

オーソドックスに王道を進んだ場合、脳虚血や脳循環の研究に取り組む可能性が高く、脊髄の研究はしなかったと思います。コカインの研究をしなければ、禁煙に関する活動にも携わることもなかったかもしれません。

環境の持つ力は大きく、麻酔科で働く女性医師の環境整備に取り組んでいるのも自身の環境の影響だと思います。僕は母が教師として働く姿を見て育ちましたし、妻も娘も医師です。女性が働く大変さ、特に医師として働く大変さを身近で見てきました。女性医師がワークライフバランスを取りながら、医師としてのキャリアを磨けるようサポートしてきました。

あらためて振り返ると、その時々に偶然出会ったものを素直に受け止めて、正面から取り組んできたのが結果的にプラスになっているのだと思います。やってみないと分からないので、安全策をとりすぎずまた失敗を恐れずに、まずはやってみることが成功に繋がるのではないでしょうか。

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